【ブックレビュー&インタビュー】明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝!

 

 カネを賭けないポーカーは楽しいか。

ノーと答える人もいるかもしれないが、私は楽しいと思う。ただし、相手が自分と同じぐらい真剣にプレーするならば――。

真剣に行われない勝負事ほど白けるものはない。モノポリーや桃鉄で形勢不利になると勝負を投げる人間とは、二度と一緒にゲームをしたくないものだ。

その点、カネを賭けるという行為は、真剣さに一定の担保を与えてくれる便利なシステムではある。相手は勝負の結果に執着せざるを得ないし、仮にそうでなかったとしても幾ばくかのカネをせしめることができれば、それはそれで満足できる。

とはいえ、そもそも「高校球児はカネを賭けずに楽しいのか」「賭けない百人一首は楽しいか」という問いを発する人はいないだろう。ポーカーは金銭が発生することによって人気が高まっているが、それによって純粋にゲームとして楽しむ余地が少なくなってしまっているとすれば残念だ。

 

前置きが長くなったが、『明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝!』は「カネを賭けないポーカーは楽しいか」という命題に対する一つの答えを提示している。

主人公は、とある事情からポーカーが爆発的に流行している中学校の男子生徒。同校では名誉や部室獲得といった権利をかけて、定期的にポーカートーナメントが開催されている。中でもメインとなっているのは、クラブ対抗で行われる5人チームの「団体戦」である。

主人公たちは、学内で伝説となっているポーカークラブを倒すべく王座に挑む。

『涼宮ハルヒの憂鬱』のキョンを彷彿とさせる主人公の語り口だが、前半の仲間集め、ツンデレ気味の女性隊長(しかも、メガネっ娘!)、主人公を目の敵にするライバルキャラ、主人公の母親に頼まれて毎年バレンタインデーにはチョコレートをくれる幼馴染み(でも、ポーカーは鬼のように強い)、夏休みのスパルタ合宿といった要素は、どれもライトノベル的でありマンガ的だ。笑いあり涙ありの青春ストーリーに仕上がっている。

ある意味では使い古された展開なのだが、そう読者に感じさせないのは、随所にちりばめられたポーカー的演出であり、特に後半の緊迫したトーナメント描写によるものだろう。

必殺技や超能力のように相手の手札を読むプレーヤーは出てこない。作者はあくまでもリアルなポーカーを描こうとしており、“わかっている”作者が書いているからこそ、卓上の心理戦も安心して読んでいられる本格的内容だ。

まさに「読むポーカー」なのである。

amazonのキンドル(電子書籍)で販売されている自費出版小説だが、キャラクター設定やストーリー演出などのエンターテイメント性は十分で読み応えがあり、ポーカーのプレーシーンに関しても口うるさいマニア納得の完成度だ。

 

家族や友人は、維羽さんが小説を書いていることは知らないとか。
本作以前にも数本の作品を書き上げている。

 

◆著者・維羽裕介さんインタビュー「初めてのカジノでは手が震えました(笑)」

――ポーカーを小説の題材として取り上げようと思ったのはなぜですか。

「ポーカーというゲームの知名度は高いのに、ポーカーをテーマにした小説はあんまり見ないなあ」という素朴な疑問からです。登場人物を高校生にするか中学生にするかで迷ったのですが、高校生で頭が良いキャラクターを書こうとすると私の知能を軽く超えてしまう恐れがあったので、中学生にしました。

 

――「明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝!」は上下巻の大作ですが、構想から完成まで、どれぐらいの時間がかかりましたか。

別の作品を執筆しながらネタ集めとプロット作りに一年ほど、執筆と推敲で一年半ほど掛かりました。ものすごいスローペースで執筆しています。

 

――本作はAmazonのキンドル(電子書籍)として刊行されていますね。読者からは、これまでにどんな反響がありましたか。

本来であれば原稿を完成させる前に誰かに読んでもらって問題点を修正すべきなのですが、ポーカーに詳しい友人がいなかったので、私以外誰も読んでいない状態でAmazonにアップロードしました。

ですので他人がどういう感想を抱くのかまったく分からず、本を出してから日々ドキドキしていましたが、下巻を出した辺りからtwitter経由で色々と感想をいただき、ポーカーのルールをほとんど知らない方からも面白かったというコメントをいただけてホッとしています。

 

――好きな作家、影響を受けた作家はいますか。

SFを中心に執筆されている秋山瑞人先生がもっとも好きな作家で、かつ影響を受けた作家です。

 

――維羽さん自身もポーカープレーヤーだそうですが、プレー歴と始めたきっかけを教えてください。

具体的なきっかけまでは覚えていませんが、まず高校生の頃にポーカーに興味を持ちました。当時、Yahoo!ゲームにリミットホールデムがあり、よくプレイしていましたね。

その後、一旦は執筆の面白さにのめり込むのですが、気分転換で観た「007 カジノ・ロワイヤル」にノーリミットホールデムが出てきて、ポーカーをもう一回勉強してみようかなと思い立ち、それから三年程つかず離れずといった感じでポーカーを続けています。

 

――ポーカーをプレーしてきた中で印象に残っている体験はありますか。

海外のカジノで初めてホールデムをプレイした時のことです。ものすごく緊張していました。

常に手が震えていたり、ストリングベットをしてしまったり、BBの時にチェックでフロップに行けるのに勘違いしてフォールドしてしまったりと初心者丸出しだったからか、ポットを初めて獲得した時に同じテーブルを囲む外国人から「コングラチュレーション」と口々に賞賛されて、とても悔しい思いをしました(笑)。

 

――トーナメントをプレーしたことはありますか。

本書でトーナメントを描いておきながら、実はライブでは未経験です。なかなか集中できないたちなので、集中してポーカーをプレイできるのは九十分くらいが限界です。いつかチャレンジしたいなぁと思っています。

 

――ポーカーをプレーしていて、一番エキサイトするのはどのような場面でしょうか。

自分がベストハンドではない時に難しい局面に追い込まれ、相手のベットやレイズのストーリーに合理性があるかどうかを判断し、自身のアクションを決定するまでが一番エキサイトしますね。

 

――本作の主人公はティルトにならないことが強みですが、維羽さん自身はポーカーをプレーしていてティルトになることはありますか。

もともと深く考え込まない性格なので、バッドビートはかなり冷静に受け止められます。ただ、自分のミスから生じた負けについては引きずることが多いですね。

 

――作中で一番好きなキャラクターは誰ですか。

本作の数少ない良心とも言える悠木です。性格の悪いキャラクターが数多く揃っている中、彼だけは中学生に相応しい健全な精神と思いやりの心を持ち合わせています。本当は夏合宿に遊びに来てトーナメント攻略のための重大なヒントを話す予定でしたが、その役目は別の人が担いました。

それ以外では主人公をとことん嫌う榊原が気に入っています。本当はもっと創意工夫に富んだ嫌がらせをしてくれるはずでしたが、尺の都合でカットとなりました。

 

――気が早い質問かも知れませんが、すでに次回作の構想はあるのでしょうか。あるいは、再びポーカー小説を書くつもりはありますか。

20歳の頃に初めて書いた処女作を大きく手直しして出したいなあと考えています。ちなみにこれはポーカーのポの字も出て来ない作品です。

ポーカー小説については「これを書こう!」と考えていたことはほとんど出し切ってしまいましたが、続編のアイデアさえ思いつけば、すぐにでも書き始めたいところです。

 

――これから「明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝!」を読もうと思っている方に一言お願いします。

本作は上下巻に分かれていて、上巻ではポーカーのルールや基本的な戦略についての説明、下巻では実際にポーカーをプレイする時の考え方に重点を置いています。

ポーカーをテーマにした小説を書いてみましたが、私自身、もうすぐ脱初心者できるかな? というところです。そういう意味ではポーカー初心者がポーカー初心者向けに書いた小説と言っていいかもしれません。

なので、ポーカーに詳しい人はもちろん、「これからポーカーを覚えたい!」という方にもぜひぜひ読んでいただければと思います。

 (取材・構成/jj)

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