木原直哉ロングインタビュー 『ポーカー進化論』

 

 よくポーカーの世界は日進月歩だと言われている。10年前に通用したプレーは、今日のトッププレーヤーには通用しないだろうと。あるいは、情報環境の整備にともなって、一定レベルまでの到達スピードは速いが、そこから先が大変だという意味で「高速道路を走りきった後は大渋滞」という表現が使われることもある。いずれにせよ、ポーカーは今なお進化を続けていて、トッププロであっても新しい潮流から取り残されれば淘汰されてしまう。日本人初のブレスレットホルダーとなった木原直哉さんにとっても、もちろん例外ではない。

最前線の戦いにおいて、トッププレーヤーがなにを考え、どうプレーを適応させているのか。その考えている姿の一端に触れてみたいとの思いから、木原さんにインタビューをお願いした。日本の“ポーカー親善大使”として初心者やポーカー経験のない層にポーカーの魅力を語っている普段の木原さんとは一味違った話を引き出せるよう努めたつもりだ。

自分の手の内を明かすことで将来のプレーが不利になりかねないにもかかわらず、考え方や方法を惜しみなく話してくれた木原さんには、改めてこの場を借りてお礼を申し上げたい。

なお、本インタビューの読者には、ポーカーの中級者以上を想定している。過去に中級者を対象とした読み物が少なかったためだ。このため、用語やコンセプト等の解説は最小限にとどめた。

 

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◆生活のバランスは取れていません。ポーカーばっかり(笑)

― 普段、どれぐらいオンラインでプレーしていますか。

「だいたい週5回ぐらい、50時間程度ですね」

― プレーしない日は、なにをしているんですか?

「オンラインをやらない日はヒマですよ(笑)。たまに平日はオフにしますけどね。今日は珍しく朝8時に起きて、午後からフリー雀荘に行っていました。深夜のセッションが多いので、どうしても生活リズムは夜型になってしまいますけどね」

― オンラインポーカー中心の生活だと、引きこもり気味になりませんか。

「なりますね。なっちゃいます(笑)。特にトーナメントが集中する週末は家にこもっています。平日休みというのは、行く先が空いているからいいですけどね。嫁にも休みを合わせてもらっていますし。ただ、バランスは取れていないです(笑)。もうポーカーばっかりです」

― オンラインプロの日々の生活がなかなかイメージできませんが、棋士のように棋譜を並べたり、仲間内で研究会を開くようなことは?

「自分にとって、それがオンラインポーカーですね。仲間内で集まって話し合うのは、ごくたまにならいいですが、そこから得られるものは新しい戦術というより自分のリーク(弱点)。ただ、それってそんな簡単には見つからないし、潰すべきリークはすでに潰している。すぐに見つかるようなレベルではやっていけないわけですから。

あるいは、『78sでレイズするかしないか』という議論があったとして、どちらでもいいんですよね。実際にプレーすることが、技術を磨く方法としてベストなんです」

― ホールデムマネージャーなどで、自分のハンドを見直すようなことはありますか。

「プレー中にその場で見直すことはありますが、トーナメントはバブルファクターなどの状況によって判断に違いが出てくるので、どうしても統計的に分析することには向きません。そもそも、自分は他の人と比べてあまりHUDのデータはあまり重要視していません。もちろんプレーの参考にはしていますが、キャッシュと違ってトーナメントでは細かいデータがサンプル数として集まりません。平均スタックも違うし、6maxと9maxのデータも一緒くたになっていますからね。キャッシュゲームのレギュラーなら、2万、3万ハンドぐらいはデータが取れますけれど」

― 多面の環境を教えてください。

「今は基本的に9面のタイルです。カスケードは試したけれど、自分はダメでしたね。前は6maxのキャッシュを9面打ちしていたので、9maxが中心のトーナメントに移行して楽になりました。デュアルモニターにしていて、片方の画面にはロビー情報を出したり、大きなポットのリプレイを確認するために使っています」

― 週末のプレーを観戦していると、ホールデムとラズ、NLSD2-7、オマハH/Lなど複数のゲームを同時にプレーしていて、混乱しないかと思ってしまいます。

「混乱はしませんよ。最初に配られる枚数が違うので、2枚ならホールデム、3枚ならラズ、4枚がオマハ、5枚が2-7といった具合に区別することができます。ただ、同じ4枚のバドゥーギとオマハは相性が最悪ですね。2-7と5カードドローとか。あとは、ホールデムのリミットとノーリミットも嫌ですね。でも、慣れの問題だと思います」

― プロのポーカープレーヤーとして、応援されることは励みになりますか。

「めっちゃ嬉しいですね。自分がトーナメントでディープランすると、掲示板で応援してくれる人もいるので。基本は1人でプレーする孤独なゲームですから、仲間やファンの存在は大きいです。(ファンと)10ドルぐらいの大会に出ることはできますが、それだと参加者が数千人になってしまって、一緒の卓に座ることはできないのが残念ですね。NLSD2-7は参加者少ないですけど(笑)」

― まだ欧米に比べてプレーヤー数の少ない日本では、ポーカーメディアもあまり発達していません。

「あった方がいいとは思います。しっかりポーカーのことがわかる人がもっと書いてほしいですね」

― Twitterやひゃっほう掲示板で世界中のポーカーニュースを紹介している出来事さんが、もしかしたら最大のポーカーメディアかもしれません(笑)。

「出来事さんはいいですね。なかなかあのレベルの人はいない(笑)。おかげで世界中のポーカー情報が日本に入ってきていますから」

― 木原さん自身は、最新の戦略を知るために(世界最大のポーカーフォーラム)2+2のような海外の情報にはアクセスしていますか?

「全然見ませんね。新しい戦略というのは、テーブル上で見るだけで分かります。というのも、基本的に(トッププレーヤーの)プレーに対してリスペクトがあるので、深く考えた上でプレーしている前提で接しています。ですから、彼らが目新しいプレーをしてきたら必ず何か理由があるはず。その理由を考えれば、おおよその狙いも見えてきます」

― 英語のポーカー本は読みますか。

「それも読みません。刊行されている本には最新の戦術は書いてありませんから。そのためのオンラインポーカーなんです」

― 「アグレッシブ・ポーカー」(原題『Kill Everyone』)の続編「Raiser’s Edge」には、長い海外遠征から帰ってきて、自宅でオンラインポーカーをプレーすると、数ヶ月前とプレーのトレンドが変わっていて驚かされるという記述がありました。そのぐらい進化のスピードは速いのでしょうか。

「確かにありますね。今年のWSOPから帰ってきて、2ヶ月間ぐらい間隔が空いていたわけですが、PLO(ポットリミットオマハ)のキャッシュゲームについていけなかったですね。もちろん最初は自分の感覚も狂っているのですが、プレーがだいぶ変わっていた。具体的には、例えばPLOでは3BET側がAAxxを持っている前提でプレーしていましたが、コール側はそうではない可能性も考慮に入れるようになっていました。例えば、フロップにAが落ちれば3BET側に圧倒的なボードですからコール側がレイズするようなことは考えられませんでしたが、わりと標準的なプレーになっていました」

― ホールデムに関しても、短期間に進化し続けているのでしょうか。

「ホールデムはさすがに研究されているので、短期間ではそこまで変わりません。自分が気付いた範囲では、最近あった変化としては、一時期よりブラフの4BETが減ったこと、BBからの3BETが減ってコールするプレーヤーが増えたことでしょうか。強いプレーヤーを中心にブラインドスチールに対する3BET or foldというスタイルは減って、ポジションなしでコールする場面が増えました。相手にインプライドオッズを与えてしまうと言われますが、もともとのオッズ自体は合っていますから、もっとオッズに忠実に打ちましょうということなのだと理解しています」

― 気になるオンラインプレーヤーはいますか。

「クリス・モーマン。先日、オンラインの累計賞金少額が10ミリオン(約10億円)に到達したプレーヤーです。オンラインのナンバーワン……うん、ナンバーワンと言ってもいいと思いますね。こいつは強い! 他に強いプレーヤーは『強いけど、ちょっとリークあるな』とか『足元すくえる可能性あるな』というポイントがありますけど、ヤツに関しては全然見えてこないですね」

 

後ろで見守っているのは今の奥様。理系女子だとか。

後ろで見守っているのは今の奥様。理系女子だとか。

 

◆オーバーアグレッシブを食うためのプレー

― 今年のWSOPでは、全体的なフィールドのトレンドとして、オーバーアグレッシブなプレーヤーが増えてきたとおっしゃっていました。

「これはオンラインで先行している傾向ですが、いまはライブがワンテンポ遅れてオーバーアグレッシブになっている印象ですね。オンラインでは、今は逆にオーバーアグレッシブを食うためのプレーに移行している人が増えています。そうすると、オーバーアグレッシブはやられちゃうんです」

― ブラフキャッチをする局面が増える?

「そうですね。ブラフキャッチも増えますし、ブラフをさせるためのプレーをするんですよ。ついブラフをしてしまう、ムズムズッとブラフをしたくなるような状況をセットアップする」

― それはスロープレーとは違うのですか?

「違いますね」

― フロップCBを打ってターンチェック、リバーでもう一度ベットするといった矛盾を含んだアクションということでしょうか。

「ターンチェックレイズとかですね。これは最近オンラインでも取り入れているプレーですが、CBを打ってターンでチェックレイズする」

― それに対して、相手プレーヤーからもう一発かぶせてもらうことを期待しているわけでしょうか。

「スタック的にターンでチェックレイズしたら、ほぼオールインになりますね。(オーバーアグレッシブなプレーヤーは)とりあえず降りないですよ(笑)。フローティング大好きで、こっちもセミブラフでフラッシュドローぐらいがあれば、ターンでチェックレイズオールインをするとか」

― オンラインでも、マイクロレートにはコーリングステーションがいますが、$0.5/$1ぐらいのミドルレートではフローティングが増えるので、トップペアで稼げる印象があります。

「ただ、トップペアはなかなかできない(笑)。だからフローティングが有効なんですけどね。ちなみに、自分は、フローティングするかわりに(CBに対して)フロップでレイズします」

― WSOP期間中、Twitterで「ソフトなテーブル」という表現をしていました。アマチュアが多いという意味でしょうか。

「アマチュアだけではなくて、甘いプロもいますよ。あとはオーバーアグレなソフトもいれば、パッシブすぎるソフトもいるので、それに合わせてプレーのスタイルを変えるということですね。また、弱いプレーヤーであれば、こちらのプレーには注意を払わないので、ベット額を多少変えてもいいし、より欲張ってプレーします」

― 相手プレーヤーがプロかアマかという違いは意識しますか。

「そこは強いかどうかだけですね。うまいプレーヤーが実はポーカーを趣味でやっている弁護士さんかもしれないし、特に(プロとアマという)区別はしません」

― 木原さんは、ライブトーナメント等で相手のテル(癖)や仕草、雰囲気などはプレーの際には一切考慮しないのでしょうか。

「テルは、すごく見てますよ。相手が弱い場合は、追加の利益を出すことができるので。ただ、相手が強かったら、やっぱり見ても意味がないことばかりです」

― 逆に自分のテルが出ないように気をつけていることはありますか?

「それはありますね。プレー中は基本的に金額を口に出さないようにしています。また、チップを出す時は、一番少ない枚数で済むようにベットするように決めています。たとえば、120ドルなら、5ドルチップ24枚ではなく、100ドルチップと5ドルチップ4枚を常にベットするような感じです。あと、キャッシュゲームでは気にせずチップシャッフルしていますが、大事なトーナメントでは極力やめます。相手のアクションが終わるまで身動きしない、視線はテーブルの中央に置いて相手の行動をそんなに目で追わない。そんなところでしょうか」

― 次のライブトーナメントはオージーミリオンですか?

「そうですね。行ったことないので、今回はPCAを断って参加してみます。PCAは(ポーカースターズ)チームオンラインのミーティングがあるのでなるべく来てほしいと言われているのですが、家から片道30時間かかるし(笑)。アメリカ人にとっては行きやすい場所ですけど」

― その次に参戦予定のWPTロサンゼルス・ポーカークラシックでは、今年も惜しいところまで行きましたね。

「LAポーカークラシックは10000ドルバイインイベントで最初にインマネ(入賞)したトーナメントでもあり、個人的にすごく思い入れがあります。今年は非公式ファイナルテーブルまで行きましたが、残念でしたね。過去の優勝者にはガス・ハンセン、アントニオ・エスファンディアリ、マイケル・ミズラーチ、そしてフィル・アイビーとそうそうたるメンバーが揃っています。なんとしても獲りたいタイトルの一つですね」

 

2013年には、PokerListings主催のMost Inspiring Player Awardを受賞。有名プロを押しのけての受賞自体も快挙だったが、ポーカーレポーターKara Scottのインタビューに(一部の)ポーカーファンが沸いた。

2013年には、PokerListings主催のMost Inspiring Player Awardを受賞。有名プロを押しのけての受賞自体も快挙だったが、ポーカーレポーターKara Scottのインタビューに(一部の)ポーカーファンが沸いた。

 

◆WSOPファイナルテーブルはwinner takes allに近い

― もう一つブレスレットを取ることは、木原さんにとって大事なことですか?

「すっごい大事ですね。WSOPはやはり別格ですから。参加人数が増えたクリス・マネーメーカー以降の10年間でブレスレットは600個ぐらい存在するわけです。WSOPE(WSOPヨーロッパ)まで含めれば700個ぐらいですかね。重複している人もいるから、正味でブレスレット取ったプレーヤーは600人ぐらいでしょう。今は600人のうちの1人ですが、複数取っている人は20人ぐらいしかいないですですから、600分の1から20分の1になれる。もちろん0から1は大きいんですが、1と2というステップも大きい。自分は契約してもらってプロとしてやっていて、今年のLAポーカークラシックでもファイナルまで行ったので、フロックとまでは言われないかもしれないけど、複数取れば評価も全然変わりますからね。取りたいです。ちなみに日本人二つ目のブレスレットを獲るのが自分かそれ以外かで言うと、1対3(25%)ぐらいのオッズになると思います」

― そういう意味では、今年二つのブレスレットを獲得して、キャリア二度目となるWSOP POYを獲得したダニエルは驚異的ですね。

「すごい。みんなダニエルを過小評価しすぎです。ハイステークスポーカーで負けてるイメージがあって、自分も3年前はそう思っていました。『ダニエルはそんなに強くない』『自分と大して変わらないんじゃないか』と本気で思っていましたけど、自分は3年前よりプレーヤーとして強くなりましたけど、ダニエルとの距離はむしろ広がったように感じています。ブレスレットを2つとって、EPTグランドファイナルでファイナル、WPTグランドファイナルでも決勝、オンラインでもSCOOPの$5000オマハで優勝しました。あのSCOOPは、自分がファイナルテーブルのホストを務めていたんです」

― ダニエルはブロンズスターでした(笑)。

「200ドルレーキ払ったので、翌日にはゴールドスターになっていたはずです(笑)」

― WSOPではディールが認められていませんね。

「そうですね、禁止されています。WSOPではないですが、ある日本人プレーヤーがライブトーナメントで優勝したとき、残り3人でディールしたんです。賞金をすべて分けて、最後はタイトルをかけての勝負になった。最後、ヘッズアップでスタックが8:2になったとき、相手側が『疲れたから寝るよ』と言ってタイトルもらったんです。賞金額はすでに確定していましたから、フリーロールなんですけどね。自分にはわりと驚きでしたけど、そういう人もいるぐらいです。本当にタイトルに興味ない人もいるんですね」

― 他のトーナメントのファイナルテーブルと比べて、ブレスレットのかかるWSOPはプレーのスタイルが変わりますか。

「そうですね。ICM(Independent Chip Model)に従って打つと賞金アップによるバブルファクターがあるので、五分五分の勝負はお互いに避けた方が得なんですね。五分五分のオールインは、見ている第三者が(相対的に)得をするので。ただ、優勝することだけを目指すのであれば、バブルファクターが存在しないwinner takes all(勝者総取り)形式に近いので、コインフリップを避ける理由はありません。

ただ、平均スタックがけっこうディープなんで、プッシュ・オア・フォールド(プリフロップのアクションがフォールドかオールインの二択になる状況)にはなかなかなりませんけどね。オンラインでも、ファイナルテーブルがスタートした瞬間のアベレージが20BBでも、ぱかぱかっとプレーヤーが飛ぶと、急にスタックがディープになります。ターボイベントは、アベレージ10BBぐらいで推移しますけど、ファイナルの残り3人で一気に20BBになることも。

自分はディープ(な状況)が好きですね。自分がBBのポジションのとき、コールドコールできるんです。レイズに対してプッシュ・オア・フォールドにしたがってリスチールオールインするではなくて、コールしてフロップを見ることができる。要はオッズコールなんですけど」

― ステーキングを受けることについてはどう考えていますか。メインイベントに次いで権威があるとされる$50000バイイン(約500万円)のプレーヤーズ・チャンピオンシップ(全部で8種類のゲームを順番にプレーするミックスゲーム・トーナメント)に参加することも可能になりますね。

「税金や手続き的な問題が煩雑ではありますが、ステーキングをしてもらえるのであれば是非受けたいですね。現状では、さすがにバイインが高額ですね」

 

普段はニコニコしているが、プレー中は鋭い視線が印象的。

普段はニコニコしているが、プレー中は鋭い視線が印象的。

 

◆打たずにいられない相手を食うのが有効

― いくつか具体的な戦術についてうかがいます。木原さんは、オープンリンプをすることはありますか。

「基本はしないですが、キャッシュゲームではごくたまにあります」

― それはオマハですか?

「PLOのトーナメントでは、わりとよくやります。アーリーでAAxxが配られてたときです。リンプリレイズしますね。基本はポットレイズされるので、リンプしてポットレイズが4.5bb、そこに1人コールが入ると、3BET額が20bbぐらいになるので、気持ちよくAAxxで突っ込めるんですよ。そのままコールで回っても、セットマインしてもいいですし、オーバーペア+フラッシュドローで突っ込んでもいいですし、プレーの幅は十分あります」

― ホールデムでは、オープンリンプが有効な場面はありますか。

「あんまりないですね」

― スモールブラインドからコンプリート(BB額をコール)することはどうでしょう。

「それはやります。SBからオープンレイズしてコールされたら面倒くさい、20bbぐらいのスタックのときですね」

― BBにレイズされたらフォールドですか?

「降りるかオールオンですね。ブラインド同士の対決では、(特にトーナメントでは)SBのレイズに対してBBが20bbぐらいを3BETオールインはよくありますよね。同じことをやるならば、ポジションのないSBからやった方が得です。BBはインポジションでフロップ以降のプレーに進んでも良いので。そう考えると、ポジションのないSB側から3BETオールインをした方が得するハズです。プリフロップで決着を付けることによって、ポジションの不利を消すことができる。

他にも意味があって、リンプリレイズオールインを嫌ってBBがチェックすると、BBのハンドレンジにはAはほぼない。SBのコンプリートに対しては、BBでAを持っていれば普通はレイズしますね。ボードにAが落ちれば、SBはエニーハンドでブラフすることが可能になるんです。BB側は抵抗する術はないですね。主張できるハンドがないですから。ブラフか変なボトム2ペアみたいなハンドぐらい。SB側はAKでリンプする可能性はありますから。というかSBからのオープンリンプを戦術として取り入れるのであれば、AAのようなプレミアムハンドもレンジに入れる必要があるので、非常に有力なプレーですね。特に相手がアグレッシブな場合には。リンプリレイズオールインをすることによって、相手のアグレッシブな翼を奪い取ることができるのです。

逆にSBのコンプリートに対して、BBが自分から18-20bbぐらいをオールインしてくることもあります。それをAxやKxでスナップコールする。最近このプレーをよくやっていて、面白いぐらいに通用しています。K8でコールしたら、相手がK6だったことも(笑)。

みんなチェックできない。BBからチェックする能力がないんです。打たずにいられなくなっている。そういう相手を食うのが、特にターボトーナメントでは有効だと最近思ってます」

― ブロックベットというプレーに疑問を感じるのですが、「自分より強いハンドをフォールドさせる」か「自分より悪いハンドにコールしてもらう」ことがポーカーにおけるベットの基本だと理解していますが、ブロックベットはどちらでもない中途半端な存在ですね。

「自分も疑問でしたが、ブロックベットはバリューベットに分類されるべきです。バリューのないハンドでブロックベットするのはダメなんですよ。イメージとしては、ブロックベットはチェックしたらバリューを取れる(ショウダウンで勝てる)ハンド、ブラフキャッチからバリューを取るハンドでもあると同時に小さいブロックベットに対してレイズをできないハンドからのマイナス分を最小化するんです。

例えば、セカンドペアとグッドキッカーを持っていてターンチェックで回ったとして、リバーでチョロッと打つ。すると、トップペアでもリバーではレイズしづらいのでコールしますね。チェックで回ったら、おそらくリバーでベットされてしまいますね。同じ状況で相手がサードペアを持っていたら、チョロッと打ったベットに対してコールしませんか? 今度はセカンドペアにバリューが生まれるんです。ブロックベットをするときの価値は、トップペアに対してリスクを減らしつつ、サードペアぐらいのハンドからバリューを取りましょうという概念です。

ブロックベットで一番大事だけど忘れられがちなポイントは、ブロックベットをすることでバリューを取れないとダメなんです。セカンドペアのキッカー勝ちでバリューを取りたい。そういうハンドはチェックバックされてしまうので、チェックバックさせずに薄いバリューを拾いにいく。

相手はモンスターだったらレイズしますし、またはブラフでレイズすることもありますね。相手にもよりますが、小さいベットはブラフ・インデュース、つまりブラフを誘発させるベットでもあります。小さいブロックベットを打って、強いプレーヤーはレイズされてもブラフキャッチでコールすることもあり得ます。

一つのベットにいろいろな意味合いがある。なにも考えずに微妙なハンドで小さく打つプレーヤーのブロックベットとトッププレーヤーのブロックベットは全然違うので、複雑に考えて小さくリバーで打ちますね。バリューを取りつつ、トップペアの大きめのバリューベットを拒否して、さらにクソ手で大きくブラフしてくるプレーヤーに対してはブラフをさせることにもなる。60000点のポットに対して12000点の小さいベットを打たれると、ドロー滑りでムズムズしてレイズしたくなるプレーヤーがいるんです(笑)」

― 木原さんは、戦術に取り入れている?

「まだ自分はうまく使えていないです。たまにチョコっとやっていますが、自分はもともとキャッシュゲームプレーヤーなのでブロックベットはしづらいですね。トーナメントプレーヤーの方がうまいですね。キャッシュゲームはバリューを取ってナンボなので、どうしてもブロックベットよりもブラフをチェックコールで捕まえるケースの方が多いですね。

自分の周辺で一番うまいのはClutchHero(※有名な日本人オンラインプロ)ですね。ブラフをさせるプレーなので、相手のハンドやブラフ率のリーディングに自信がないとできないです。正しくやれば超有力ですけれど、難しいですよ。

ClutchHeroがやるのは、例えばBBのとき87でコール、フロップJ85でチェックコール、ターン3がチェックで回り、リバーJで小さくベットみたいなプレーです。普通に打ったらバリューないけど、小さく打つことでそれなりのバリューもあるし、ブラフを誘発することにもなります。オリジナルレイザーがAQを持っていた場合、リバーでポットの25%ぐらい打たれたら困りますよね。6割打たれたら基本は降りればいいですが、BBのハンドは67、T9、QTのようなミスしたドローからJと弱いキッカーのようなハンドまであり得る」

― Aハイでグッドかもしれないけど、相手を降ろすベットにしては額が小さい印象ですね。

「すごくめんどくさいですね。ストーリー薄いけどブラフでレイズするべきなのか? ……でも、それをキャッチするためのベットかもと思わせるのが、プロのブロックベットですね」

― リーディングしてくれるプレーヤーでないと、あっさりコールされてしまいそうですね。

「それはそれでかまいません。金額も小さいので、そもそもブロックベットの目的達成ですから。

逆にそういう小さいリバーベットに対して降りるプレーヤーならば、今度は(ショウダウンバリューのない)6ハイぐらいのナッシングで小さいブラフを打つんです。『ブロックベットでレイズされたらコールするよ』というプレーを装ったブラフですね。そこまで行くと面白いですね(笑)」

― ブロックベットとは、薄いバリューベット(thin value bet)と同一の考え方ですか?

「ちょっと違います。thin value betは、ポジションありから打つケースも含みますし、バリューが薄くてもベット額はブラフをする場合と同様にそこそこ大きめです。それに対してブロックベットは、ポジションがないところから、普通のブラフやバリューベットより小さめの金額を打ちます」

 

2012年に日本人初のWSOPブレスレットを獲得した。

2012年に日本人初のWSOPブレスレットを獲得した。

 

◆一昔前とは変わったベットサイズのトレンド

― いわゆる確認ベット(probe bet)、CBに対してミニマムレイズをするようなプレーは有効ですか。

「自分は、そこでのミニマムレイズはすごいクソプレーだと思いますね。トップペア+微妙なキッカー、セカンドペアなどでやるとすれば、どうかと思います。ただ、ミニマムレイズを完全ナッシングかモンスターにポラライズ(両極化)してやるのであれば有力です。そもそも、確認ベットするぐらいなら、その金額で2回コールした方が得なので」

― トーナメントにおける3BET、4BETの額がどんどん小さくなる傾向がありますね。

「今はそうでもないです。一部のプレーヤーは未だにそうですが、一昔前のトレンドですね。ライブだと今そういう時期かもしれません。

小さいベット額に対するパニッシュメント(制裁)は、コールを多くすることです。逆に大きいベットに対するパニッシュメントは、降りるか打ち返すかポラライズしてコールをしないことが有力です。今までは3BETに対してはフラットコールするぐらいなら(4BETを)打ち返した方が得だという風潮がありました。フラットコールされないなら、3BET額も小さくて良いわけです。だから、3BET額はどんどん小さくなっていきましたが、コールされるようになったのでサイズが大きくなってきている。自分は、まわりが小さい方向に移行していた時期も常に大きめの3BETを打っていましたね。ジョセフ・チョンやマルチーズといった連中も3BETのサイズは大きいですね。彼らは参考にすべきプレーヤーですから、『やっぱ大きくていいんだな』と思った記憶があります」

― オープンレイズ額についてうかがいます。ハンドレンジが相対的に強いアーリーポジションからは2.5bb、よりリスペクトされないレイトポジションからは(コールされにくいように)3bbを打つべきだと書いてある本もありますが。

「昔はそれが基本戦術だったんです。今のトレンドが逆になっていて、かつては『ボタンのレイズは信用されないから、金額を大きくしなさい』と言われていましたが、決定的に変わったのはボタンやカットオフのレイズに対してめちゃくちゃ3BETが飛んでくるようになっています。それに対抗するためにレイズ金額が下がったんです。3BETをされないなら、金額が大きい方が得なんです。そう考えると、こちらのハンドレンジが強くて向こうが3BETしにくいアーリーからオープンする場合は、レイズ額は大きくした方がいい。レイトポジションからのレイズは小さくして、3BETに対処しようというのが今の基本的なコンセプトですね」

― それは、キャッシュでもトーナメントでも、基本的には同じ考え方ですか。

「そうですね、変わらないですね。ハンドレンジが強いからこそ大きく打つんです。超絶ロックな人がレイズしてきたら、ボタンで(インプライドオッズのある)33のようなローペアがあれば喜んでコールしませんか? あと稼がなきゃダメなんです。強いハンドはスチールではなくて稼ぎたいから、少しでもポットを大きくしたい」

― サイドポットが発生したときのCBの額がよく分かりません。メインが大きめでサイドが小さい場合、フロップが滑ってCBが打つとしますね。メインは降ろせない相手なので、どうしたらよいのでしょうか。

「難しいですよね。基本的にあまり機会がないシチュエーションなので、シレッと強いハンドのときはメインもサイドも含めた金額でCBを打って、完全に滑って『サイドポットだけでいいや』というときは普段より小さく打ちます(笑)。メインポットも、Aハイで勝っているかもしれないですけどね。自分のハンドによって変えても、それがバレなければ問題ない。レアケースですから、相手からはハンドによって変えているかどうかは分からないですよ」

― 最後になりますが、昨年に引き続いてカリスマトレーダーcisさんの提供で「年末ジャンボポーカー大会」が開催されます。木原さんは優勝者によるヘッズアップの挑戦を受けますが、メッセージを一言お願いします。

「エキシビジョンマッチなので楽しくプレーしたいと思いますし、対戦する方もそういう風に思っていただけたれば幸いです」

 

(取材・構成/JJ)

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